クレーマー対応における告発と被害届の違いを理解しよう

投稿者:
島田 直行(弁護士)
2017.05.20 (更新日:2020.08.28) 労働問題

クレーマー対応においては,警察の活用も効果的な方法のひとつです。「警察に相談するべきか」と悩んでいる間に事態はどんどん悪化するときがあります。クレーマーによって業務に支障がでているのであれば,それは犯罪となる可能性があります。「いざとなれば警察に相談する」という気概を持っておくことが必要です。

警察への協力方法については,「【弁護士が解説】クレーマー対応時に警察を頼るべきか」という記事にまとめていますのでご覧ください。

ではクレーマーからの被害にあったときに警察にはどのように報告したらいいのでしょう。

捜査の目的は犯人の発見と証拠の確保

警察が担う役割のひとつが捜査です。「そんなことあたりまえでしょ」と思われるかもしれません。ですが「捜査とはいったいなんでしょう」と質問されたらどう回答しますか。TVドラマなどで捜査の様子はイメージできても「なぜ捜査するのか」と改めて質問されると言葉に詰まるでしょう。

ものすごくざっくり説明すると捜査の目的は,刑事裁判のために①犯人を発見して②証拠を確保・保全することです。

そもそも裁判を受けるべき人が見つからなければ裁判になりません。そのため犯人を発見しなければなりません。地道な犯人の探索というのはイメージしやすいでしょう。

犯人が犯罪を犯したということを明らかにするには,根拠となる証拠が必要となります。耳にしたことのある供述調書などや差押令状といったものは,証拠の確保・保全に関するものです。

捜査を始めるきっかけを捜査の端緒という

こういった捜査が開始されるためには,なんらかのきっかけが必要となります。警察は,むやみやたらに「犯罪があるあのではないか」と考えて捜査をするわけではありません。そんなことをしていたら社会全体が疑心暗鬼になりますし,資源もたりません。きっかけがあるからこそ捜査がはじまります。こういった捜査のきっかけを捜査の端緒といいます。

告訴と被害届は,いずれも捜査の端緒のひとつとされています。その他に職務質問も捜査の端緒とされます。

捜査の端緒があれば,警察として捜査などを開始します。捜査活動により犯人を発見し証拠を確保していきます。そのうえで検察官が起訴するべきと判断すれば,刑事裁判がはじまることになります。

刑事裁判の特徴は,訴追する側(検察),判断する側(裁判所),弁護する側(弁護人)が明確に区別されているところにあります。そんなことあたりまえと思われるかもしれませんがすごいことなんです。例えば時代劇の遠山の金さんなどの御しらす。あれは「お前がやっただろう」と言う人と「お前がやった」と判断する人が同じです。考えれば無茶な話なです。

クレーマー対応においては,ケースによって被害届か告訴をすることになります。いずれも「捜査がはじまるきっかけ」という意味では同じです。ですが両者には決定的な違いもあります。

クレーマーに対しては,被害届ではなく告訴をまず考えるべき

告訴と被害届は,捜査の端緒としては同じですが含まれる意思の内容が違います。

まず告訴は,犯人に対する処罰の意思が含まれています。つまり「こんな犯罪をした人を処罰して欲しい」という意思があるというわけです。そして告訴・告発を受けた捜査機関としては,捜査を開始する必要があります。

被害届は,たんにある被害にあったということの報告です。そこには当然には処罰の意思は含まれていません。捜査機関としては,実際に捜査するかどうかを決める裁量があります。

このように告訴と被害届では,処罰意思の有無が大きく違ってきます。確実な捜査を求めるのであれば,告訴をすることになります。

そのためクレーマー案件においては,必要において告訴をするようにしています。告訴をしなければ,確実な捜査にならないからです。会社として「このクレーマーに処罰を求めたい」という意向があれば,告訴によってしかるべき捜査を開始してもらうべきでしょう。

もっともケースによっては,とりあえず被害届で終わらせて捜査の有無は警察の判断に任せるというときもあります。

告訴までするべきか被害届で終わらせるべきかは,ケースによっても異なります。ここは専門的な判断を要するため事前に弁護士に相談して方針を固めておくべきです。

クレーマーを告訴すれば終わりというわけではありません

クレーマーを告訴すれば,あとは警察が捜査をして刑事裁判になるとは限りません。捜査の結果として証拠不十分などとなれば,起訴されないこともあります。起訴・不起訴の結果については告訴した者に通知されます。

クレーマーを告訴したものの不起訴になれば,かえってクレーマーから「根拠のない告訴をした」として責められる可能性も否定できません。なんでもかんでも告訴をすればいいというわけではありません。かえってクレーマーの立場を強化させる可能性もあるということです。

クレーマーを告訴するときには,やはり証拠を予め確保しておくことです。警察としても過去の事情まではわかりません。ですから会社の窓口で大声をだしたりしている状況については,動画として録画しておくなど「将来の証拠を確保しておく」という意識が必要です。こういった対処はあらかじめ組織で決めておかなければ,いざというときには「その場の対応に焦って誰も録画していなかった」ということになりかねません。それでは証拠不十分で起訴されない可能性も有ります。

日頃の心がけと準備こそが告訴の場面でも必要です。