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後継者・幹部育成

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社員が発熱。企業はPCR検査を義務づけられるか

島田 直行 弁護士:島田 直行 投稿日:2021.01.21

新型コロナは変異種も発見され拡大しています。企業としては、「社員の安全をいかに確保するか」が大きな課題になっています。これにともない事務所にも新型コロナ対策についての質問を受けることが増えてきました。いずれも「〇〇することは法律的に問題になるのか」といったものです。新型コロナについては具体的な法的な規定が十分ではありません。そのため企業としても自信をもって対策を取ることができないのでしょう。ここでは問題になりやすい事項についていくつか紹介しておきます。

社員にPCR検査を義務づけることができるか

民間によるPCR検査が普及してきたことにともない企業としても社員にPCR検査を義務づけたいというニーズがあります。一律の検査を実施すれば、企業における感染の防止につながるでしょう。ただしPCR検査は、個人のプライバシーとも抵触しかねないところがあります。そこで企業としても「常識的には大丈夫とは思うが」と不安になり弁護士に相談ということになるのでしょう。

そもそも企業は、社員の安全を確保するべき義務を負担しています。これを安全配慮義務といいます。企業として社員の安全を確保するためには、前提として体調が悪い人がいれば受診してもらわなければ正確な情報を手に入れることができません。そのため就業規則に受診命令についての記載があれば、「熱がある」という社員に対して受診を命じることができます。仮にこういった規定が就業規則になくても京セラ事件において一定の場合には受診命令をだすことができるとされています。個人的には新型コロナの場合には感染力も高いため体調不良があれば企業として受診を命じるべきと考えています。そうしなければ感染者を増やすことになりかねないからです。仮に体調が悪いにも関わらず受診を拒否するのであれば出社を認めないという判断をすることになります。

ではさらに社員にPCR検査を義務づけることまでできるでしょうか。これについてはいまだ明確なガイドラインといったものはありません。個人的には一定の場合には義務づけることができると考えています。PCR検査は、安衛法上の定期健診に該当しない法定外健診にあたります。帯広電報電話局事件では、一定の場合に法定外健診を義務づけることができるとされています。感染力の高い新型コロナについては、一般的に検査をする必要性なども認められるでしょう。とくに不特定多数の人が出入りする企業であればなおさら感染のリスクが高くなりますから検査をする必要があります。こういった検査を義務づける場合には、①就業規則などで命じる根拠が明示されていること②一律・画一的に実施すること及び③検査費用を企業が負担することが条件になると考えます。

取引先に社員の感染を伝えることは個人情報保護法違反にならないか

新型コロナの感染防止の観点からは、取引先にも感染者の情報を伝える必要があるため本人の同意なく情報を伝えることができます。ただし感染者のプライバシー保護にも配慮する必要があるため「感染を防止するため」に必要な範囲で情報を提供するべきです。これについては個人情報保護委員会の見解が参考になります。

新型コロナウイルス感染症の拡大防止を目的とした個人データの取扱いについて

企業として安全配慮義務違反として責任を追及されることはあるか

企業として飛沫防止など適切な配慮をしていない状況で感染が広がった場合には、安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を追及される可能性はあります。新型コロナは「どこでだれが感染するかわからないもの」です。企業としては、「自社も感染者がでるかもしれない」という前提で感染防止策をとる必要があります。ただし安全配慮義務違反といっても実際に責任が認められるのは、それほど簡単ではないと考えます。理由としては、①感染経路の特定が容易ではない(=企業の責任で感染したのかわからない)②安全配慮義務の範囲が明確ではないなど挙げられます。だからといって企業としては「とりあえず」対応しておけばいいというわけではありません。そもそも感染者がでて事業が停止すれば、事業ができないのみならず風評被害を受ける可能性もあります。ですから企業としてはできる限りの感染防止策をとるべきです。しかも法的責任を追及されないためには、「いかなる防止策をとっているのか」について事後的に説明ができるように記録しておくべきでしょう。

なおアメリカで従業員の遺族が企業を訴えるケースもすでにあります

ウォルマートを従業員遺族が提訴 米国で「コロナ訴訟」の号砲

コロナ禍を理由に退職を勧めることはできるか

企業が社員に「退職してくれないか」と打診することはできます。ですが「コロナ禍で売上の目処が立たないから」というのはあくまで企業の都合であって社員の都合ではありません。コロナ禍だからといって社員に退職を強要することなどできるはずはありません。あくまで事情を説明して社員に納得してもらうほかないです。昨年の年末から退職勧奨についての相談が立て続けに来ています。社員からすれば「こういうコロナ禍だからこそ退職したら将来が見えない」という言い分になります。あたりまえのことです。だからこそ企業としては退職時におけるインセンティブ(≒経済的補償)をいかに提示できるかが重要になってきます。

この数ヶ月の傾向としては5ヶ月以上の賃金相当額を退職金に上積みして退職に応じてもらっているケースが多いです。やはりコロナという状況で再就職の道も見いだしにくいため払うべき金額も高くなります。それはある意味では会社の都合で退職してもらうのですから仕方のないことです。経営者のなかには、「会社の都合ではない。コロナのせいだ」と言われる方もいますが意味のないことです。そんなことを息巻いて語っていったい誰が「そうですね。わかりました」となるのでしょう。

こういった退職勧奨については、助成金に影響することもあるので気をつけてください。とくにコロナ禍では助成金をもらっている企業も多いでしょう。くれぐれも退職時における助成金への影響には気をつけてください。場合によっては返金や将来においてもらえないということもあるようです。

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