解雇予告手当を支払えば大丈夫?従業員を解雇せざるをえない時に経営者が配慮すべきこと

投稿者:
島田 直行(弁護士)
2020.01.09 (更新日:2020.01.10) 労働問題

経営者からの労働問題で多いのは,やはり社員に対する解雇の可否です。会社の方針にあわない社員に対して退職勧奨するも応じてくれない。そこで「解雇できるだろうか」ということで相談に来られます。印象ですが9割以上の案件では,「これで解雇したら不当解雇でもめるでしょうね」という回答になってしまいます。不当解雇になると会社も相当の負担を強いられるのでくれぐれも注意しないといけません。解雇予告手当を支払いさえすれば従業員を解雇できるわけではないのです。

日本における解雇の難しさ

いまだに「1ヶ月分の賃金を支払えば解雇できるのでしょ」と口にされる経営者がいます。まったくの誤解です。日本では,解雇できる場合が厳格に決まっています。たんに会社の方針にあわないとか社員との協調性がないというだけでは解雇の理由にはなりません。こういった厳しい解雇理由を突破したうえでさらに1ヶ月の賃金相当額を支払うことで即時解雇ができるわけです。

日本では,このように解雇できる場面が厳しく制限されています。雇用の流動性を高めるために解雇できる条件を緩和しようという動きもありますが実施には至っていません。「解雇が難しい」と説明すると経営者から「なぜ会社が問題のある社員を雇用し続けないといけないのか。あまりにも会社の負担がありすぎる」という反発を受けることがよくあります。経営者としての本音でしょう。ですが解雇条件の緩和は労働者の地位を不安定にするとして実現までにはまだまだ課題が多いのが実際のところです。

そもそも解雇が制限されるのは,終身雇用と年功序列という日本特有の労働環境が影響しています。日本では,若手の時代は労働能力>収入という関係が成り立ちます。時間の経過とともに労働能力≒収入,労働能力<収入というような形になっていきます。つまり日本の場合には,一生涯同じ場所に勤務することを前提に生涯賃金との整合性をとっているという特殊性があります。そのためある時点で一方的に会社が解雇により労働契約を解消すると労働者が提供した労働力に見合った収入を得ないまま企業を離れることになり労働者にとって不利です。そのため日本では,解雇できるケースを厳格にしています。

もっとも現在では労働人口の減少や価値観の変化で終身雇用というのが絶対的なものではなくなりました。収入についても年功序列ではなく成果に応じてという意識も広まっています。解雇規制の前提となる社会事実に変化がではじめています。そのような状況下でこれまでのような解雇規制を維持するべきかはひとつの課題といえるでしょう。

解雇予告手当だけでは十分でない:解雇に必要な手続き

解雇は一方的に労働契約を解消させるので労働者にとって相当な負担になります。そのためにも解雇については著しく制限されているわけです。

そもそも解雇が有効になるには解雇するだけの具体的な理由が必要です。しかも就業規則などに明示しておかなければなります。企業でありがちなのは,なんとなく社長や他の社員と折り合いが悪いからということで解雇をしてしまうことです。こういった抽象的な理由では解雇できません。

また中小企業では,「社風」というのを理由にあげる人もいます。「うちの社風にあわない」というものです。なんとなく性格的に会社の方針にあわないというものでしょう。ですがこういった理由だけでは解雇はできないです。仮に社風に合わないというのであれば,それが労働契約においてどのような意味になるかを明確にしなければなりません。

でも社長の考えなり感覚を法的なレベルでかみ砕くのは簡単ではありません。弁護士に相談するのは,こういった社長の感覚を法的な観点から言語化できることです。「つまり社長が言いたいことはこういうことですか」と言うと「そう,それだよ」と言われることもあります。自分のぼんやりした意識が法律用語で明確化されるだけで「わかってもらえた」とすっきりするのかもしれません。

手続としては,いきなり解雇というのはしないほうがいいです。そのほかのよりソフトな方法を考えたうえで「どうしようもない」というときに限って解雇を検討するべきです。よりソフトな方法としては,業務指導,配置転換あるいは退職勧奨といったものです。それでもよくならないというときにだけ解雇を考えましょう。

解雇をする場合には,普通解雇なのか懲戒解雇なのかも事前に確認しておきましょう。懲戒解雇とは,ペナルティーとしての解雇です。普通解雇とは,懲戒解雇以外の解雇をいいます。他の社員との協調性がないというのであれば,ペナルティーとしての解雇ではないため普通解雇になります。

ですが少なくない方が解雇と言えば懲戒解雇とばかり考えています。そのため手続でミスをしてしまいあとから大きなトラブルになります。

不当解雇と従業員から訴えられた場合

労働者としては,「このような解雇は不当だ。職場に戻りたい」ということで裁判がなされるときがあります。経営者からは,「事後的に裁判にならない解雇の仕方を教えてくれ」と質問されるときがあります。ですが裁判をするかどうかは労働者の自由ですから解雇について争うことを絶対に止めるというのはできません。

不当解雇で争われた場合には,たいてい企業側が不利な立場になります。そのため解雇が違法だとしても金銭を支払って退職してもらうことで裁判を終えることもよくあります。このときいくらくらいの金銭を支払うかはケースによって違います。「これまでどのような指導をしてきたのか」「労働者の問題点はなにか」『会社の受ける影響はどのようなものか」などを総合的に考慮して算出していくことになります。

もっとも一定の金銭を支払えば当然に退職してもらえるというわけではありません。あくまで社員が「納得すれば」退職してもらえるというだけです。労働事件の場合には,当事者双方が感情的になってしまい苛烈な主張の応酬になってしまうことがあります。「なにもそこまで言わなくても」ということになってしまうわけです。そしてみんな疲弊していくと。

はっきりいって感情的になればなるほど労働事件って終わりなきものになってしまいます。感情的になりそうなときでも一歩引いて冷静に判断する人がトラブルを最小限にできる人のように経験からして感じます。

和解においては,「なぜ問題のある社員にこれほど高額の金額を支払わないといけないのか」と口にされる方もいます。ですが理由なんてありません。退職してもらうためには支払うほかないわけです。それを拒否するなら職場に戻ってもらうことになります。いずれの選択をするかは社長の姿勢によって決まります。