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労災事故対応

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【労災への備え】対応の鍵は日頃からの現場と従業員の把握

松﨑 舞子 弁護士:松﨑 舞子 投稿日:2022.12.13

突然発生した労災事故により、会社としてどう対応したらよいか、どこまで責任を負うか、具体的なイメージが難しく、経営者は不安を抱えながら対応に当たります。会社が考えるべき事項は多くありますが、よく問題となる事項について、具体例とともに対応のポイントをまとめました。
本ブログをお読みいただくことで、労災事故が発生した場合に会社に生じる影響の全体像を知ることができます。

労災事故が発生。初動対応のポイント。

現場から労災事故発生の報告を受け、被災従業員の救護が終わった後は、早期に事実関係を調査して資料を保全すること、労働者死傷病報告を労働基準監督署に提出することが重要です。
事実関係の調査としては、当事者や目撃者からのヒアリング、防犯カメラ映像の確保、事故現場の写真撮影等になります。
労働基準監督署や警察が本格的な調査に入った段階では当事者や目撃者の記憶が薄れていた、防犯カメラ映像のデータの保存期間が経過してデータが確認できない、といった事態もありえます。労災事故発生後、事故状況の分かる資料が残っている段階で資料を確保しておく必要があります。
労働基準監督署への報告については、労災事故の発覚を恐れて報告をしない、虚偽の報告をするといった事例があります。このような「労災隠し」は、50万円以下の罰金という刑事処罰の対象とされており、実際に送検された事例もあります 。
労災事故が発生すると、取引先に迷惑をかけてしまう、会社の信用が失墜する、といった報告をためらう要因も浮かんできます。ただ、労災を報告しなかったとしても、被災従業員やその家族、他の従業員からの告発でいずれは発覚するものです。会社として早期に労災事故を報告し、労災保険を使用して誠実な対応をすることが、被災従業員や取引先、社会からの信頼を毀損しないためには有効といえます。

労災保険料はどれくらい上がる?

被災した従業員への補償のためには、労災保険の使用がまずもって重要となります。他方、労災保険料の増額を懸念される経営者の方も多いことでしょう。
労災事故が発生した場合の労災保険料の増額については、メリット制 の適用により保険料の増額を抑えられるケースがあります。
メリット制とは、事業場における労働災害の多寡に応じて労災保険料率又は労災保険料額を算定する制度です。メリット制の適用があるか、具体的にいくらの増減になるかは、業種や従業員数を考慮した上で決定することになります。
基本的には、労働災害が少なければ最大40%の減額率、多ければ最大40%の増額率が適用されるとご理解ください。
労働災害の多寡は、建設工事のように事業期間の定めのある業種以外の業種、例えば食品や部品の製造工場の場合には、連続する3保険年度中の実績に基づいて算出します。日頃から継続的に労働災害の発生防止に努めることで、労働災害が発生した場合の会社の負担を抑えることにつながるのです。

労災保険で従業員が受けられる補償内容。従業員から会社に更なる補償を求められることも。

労災保険を使用した場合、従業員は次のような補償を受けることになります。
治療費:療養補償給付により自己負担がなく治療が受けられます。
休業損害:休業補償給付により、事故直前3か月の給与日額の約6割が給付されます。休業特別支給金と併せると合計で事故直前3か月の給与日額の約8割の給付になります。
なお、休業3日までの期間については、制度上休業補償給付がありません。その間の補償として、有給休暇を使用することもあります。
療養が長期化している場合:脳や脊髄の障害により常に介護が必要となった等一定の重篤な傷病について、療養開始から1年6か月を経過した場合は、傷病補償給付により一時金及び年金が支給されます。
後遺障害に対する補償:障害補償給付により、年金あるいは一時金、特別支給金が支給されます。
死亡時の補償:遺族補償給付により、遺族年金や一時金が支給されます。葬祭給付により、事故直前3か月の給与日額に基づいて計算された金額が支給されます。
常時又は随時介護が必要になった場合:介護補償給付により、毎月の上限の範囲内で現実に支出した金額が支給されます。

以上のような労災保険の給付では補償されない損害もあります。
例えば、慰謝料は労災保険の給付には含まれません。慰謝料には、入通院日数に応じて発生する傷害慰謝料と、後遺障害が残った場合の後遺障害慰謝料があります。例えば、機械に親指を挟まれて骨折をする労災事故が発生した場合に、被災従業員が1か月入院し、6か月通院した場合には約150万円が傷害慰謝料として算定されます。
更に、けがをした親指が将来にわたり使えなくなったという後遺障害が残った場合には、後遺障害等級10級と認定される可能性があります。この場合には、約460万円の後遺障害慰謝料が算定されます。
いずれの慰謝料についても、少なくない損害が被災従業員に発生します。
ほかにも、後遺障害による将来の収入の減少や、将来の介護費については、労災保険では十分にカバーされない損害です。
被災した従業員としては、労災保険でカバーされない部分の補償を求めて、会社への請求を行うことになります。請求の際には、従業員から、会社が労災事故の発生を防止するために対処ができたのにしなかったという注意義務違反や安全配慮義務違反の主張がなされます。
請求を受けた会社は、注意義務違反や安全配慮義務違反がない、あるいは、あるとしても全面的な責任までは負わない、といった主張をしていきます。
事故が発生した以上、会社としては被災従業員に対する補償を第一に考えるでしょう。他方で、主張すべき点は主張するという対応も必要になる場面があります。

会社が従業員の損害すべてを賠償することにならないケース

では、会社が全面的な責任を負わないのはどういった場合かを具体的にみていきます。
会社に注意義務違反や安全配慮義務違反がある場合でも、被災従業員にも過失がある場合には、従業員側の過失分を差し引いて賠償額を計算することになります。
従業員側の過失が認められたケースには次の事例があります。
<従業員が作業上の注意事項を守らなかったケース>
◆搭乗が禁止されていたリフトに乗って作業していた従業員がリフトから転落した事故について、従業員に20%の過失を認定。
◆禁止されていた作業方法を取ったことで機械に指を挟まれた事故について従業員に40%の過失を認定。
<従業員において危険を認識できたといえるケース>
◆溶けた鉄を取り出す作業中に、溶けた鉄の飛沫によって眼を負傷した事故について、保護メガネを受け取っていながら着用していなかった従業員に30%の過失を認定。
◆機械の隙間に首と腕を挟まれた事故について、隙間に身体を入れれば挟まることを従業員において熟知していたにもかかわらず首と腕を入れたとして従業員に40%の過失を認定。

また、従業員の持病、健康管理状況等を考慮して賠償額を減額したケースもあります。
◆うつ病を発症した従業員について、てんかんの持病の影響や、精神科の受診拒否等考慮し、損害額の30%を減額。
◆脳出血を発症した従業員について、もともと血管の病変があり、健康診断で異常が出ていたにもかかわらず受診をしていなかったことを考慮して、損害額の40%を減額。

従業員に過失があったか否かは、事故当時の事実関係や事故に至るまでの経緯から考えていくことになります。初動対応で詳細に事実関係を把握し、資料を確保することが、会社として主張をすべき場面での具体的な主張につながるのです。
また、従業員の健康管理の状況が賠償額に影響を与えることもあります。健康診断の結果を確認する、産業医と連携するなどして会社が従業員の健康状態を把握することは、労災予防の観点からも重要です。他方で、労災事故発生時には、会社がすべき対応をしていたかという観点からも従業員の健康状態の把握は重要になります。

刑事処分、行政処分を受ける場合があります

労災事故の発生により、民事上の責任のほか、会社または現場の責任者が刑事上の責任、あるいは行政上の責任に問われることがあります。
刑事上の責任として追及されるのは、労働安全衛生法違反の罪、業務上過失致死傷罪(刑法211条)のいずれか、または両方です。
労働安全衛生法違反となるかは、法令に違反する事実関係を会社が認識していたか、という観点から判断されます。実際に事故が発生していなくても違反認定がされることがある点に注意が必要です。
業務上過失致死傷罪の責任を負うか否かは、労災事故の原因について会社が予見できたか、予見ができたとして事故の発生を回避する措置をとることができたかという点から判断します。
例えば、労働安全衛生規則上固定すべき支柱を固定しなかったことで天井が崩落し、天井で作業を行っていた従業員が負傷した事故で考えてみましょう。
この事故では、支柱を固定していない事実を把握しながら固定を指示しなかった現場責任者と会社代表者に労働安全衛生法違反が認定されました。加えて、現場の責任者には、支柱を固定しなければ事故が発生することは予見可能であり、支柱を固定すべきであったのに固定をしなかったとして業務上過失傷害罪が認定されました。
行政上の責任については、建設業で特に影響が大きいところです。
建設業者またはその責任者について労働安全衛生法への違反が認定されると、建設業法上の営業停止処分 の要件に該当します。
安全管理の措置が不適切であったため、工事関係者に死亡者又は負傷者を生じさせたと認定された場合 には、公共工事への入札が一定期間停止されます。停止は数週間から数か月という一時的なものですが、信用の毀損により、事実上長期的に入札で指名を受けられなくなるリスクが生じます。
刑事上、あるいは行政上の責任については、「現場責任者に任せていたので詳細は知らなかった」では済まされません。労災事故に伴う様々な責任において、経営者が現場の実情を把握していることが重要になるのです。

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