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思い通りにならない毎日と、折り合いをつける

島田 直行 弁護士:島田 直行 投稿日:2026.10.07

ちゃんと仕事をして、周囲にも気を配り、できるだけ穏やかに暮らしたい。そう思っているだけなのに、毎日はなかなか思い通りにならないですよね。言葉がうまく伝わらなかったり、善意でしたことが裏目に出たり。ようやく一つ片づいたと思えば、また次の心配事がやってくる。誰もがそれぞれの場所で頑張っていて、少しずつ疲れているのでしょう。

清水俊史氏の『原始仏教 ブッダから大乗成立へ』を読みながら、そんな日々のことを考えていました。本書は、古代インドの世界観を背景に、ブッダの教えとその後の仏教の展開をたどる本です。仏教を現代人に都合のよい人生訓へと置き換えず、その教えが生まれた時代に立ち戻って説明しているところに読み応えがあります。

とりわけ心に残ったのは、仏教が見つめる「苦」の意味でした。それは、痛いことや悲しいことだけを指すのではありません。満たされても、その状態はいつまでも続かない。大切なものを得ても、失う可能性はなくならない。そうした、生きることに伴う不安定さまで含んでいます。

私はそこに、自分の毎日と重なるものを感じました。うまくいかないたびに、自分の努力が足りないのではないかと考えてしまいます。けれど、どれほど丁寧に生きても、すべてを思い通りに整えることはできません。その事実を認めるだけでも、自分を責める気持ちは少し和らぐように思います。

もう一つ印象に残ったのは、物事はさまざまな原因や条件によって成り立ち、変わり続けるという見方でした。頭では分かっていても、私たちはつい、よい状態が続くことを期待してしまいます。仕事が順調なら、この先も順調であってほしい。人間関係がよければ、ずっと同じ距離で付き合っていたい。そして状況が変わると、失ったものに心を奪われてしまいます。

本書を読んでいると、変わり続けるものに、変わらない安心を求めることの難しさが見えてきます。

もちろん、こうした理解だけで悩みが消えるわけではありません。本書が説明する仏教の究極の目標は、輪廻、つまり生まれ変わりの繰り返しから解放されることであり、日々の気持ちを楽にすることにとどまらないからです。それでも、その教えをたどる中で、自分が何を握りしめているのかを考える時間が生まれます。

相手には分かってほしい。努力は報われてほしい。自分はいつも落ち着いていたい。どれも自然な願いです。ただ、その願いがかなわないとき、さらに自分を追い込んでしまうこともあります。願う気持ちは大切にしながら、かなわなかった自分にも居場所を残しておく。私には、そんな受け止め方が必要なのだと思いました。

本書のよさは、ブッダの教えを一つの完成した言葉として示すだけでなく、それを受け継いだ人々の歩みにも目を向けているところにあります。教えの解釈が分かれ、共同体のあり方が変わりながら、仏教は長い歴史を生きてきました。同じものを大切にしていても、考え方や歩く速さは違います。その記述には、今の社会で人と関わりながら暮らす私たちにも、考える手がかりがあるように感じます。

仕事をして、家族を気にかけ、社会の中で役割を果たしていると、心を静かに保つのは難しいこともあります。腹が立つ日もあるし、人と比べて落ち込む日もある。そんな自分をすぐに直そうとせず、今日は疲れていたのだと受け止める余裕も持ちたいものです。

現実と折り合いをつけることは、日々の小さな選択の積み重ねなのでしょう。変えられることには手を動かす。すぐには変えられないことには、少し時間を置く。誰かに助けてもらい、自分もできる範囲で誰かを支える。思い通りにならないものを抱えていても、穏やかな時間は持つことはできます。

本書を閉じたあと、明日の課題は残っていました。それでも、すべてを今日のうちに解決しなくてよいと思えました。少し休んで、また自分の歩幅で暮らしていく。そのくらいの心持ちで、今の自分と、この社会に付き合っていけたらと思っています。

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