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後継者・幹部育成

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かくしてクリニックの労働事件で院長夫婦が共倒れになってしまう

島田 直行 弁護士:島田 直行 投稿日:2021.05.22

現実のクリニックにおいては、夫婦で経営をされているケースが多いです。典型的なケースとしては、夫が院長であり、妻が事務長というものでしょう。そのため「院長、クレーマー&問題職員で悩んでいませんか?」のなかでも院長夫婦という観点から話を整理している部分が相当多いわけです。というのも夫婦の視点を離れて抽象的に議論をしても現実の問題の解決にはならないからです。クリニックのひとの問題についても院長のみならず配偶者にもインパクトを与えることが多々あります。結果として夫婦共倒れという悲惨なことにもなりかねません。

院長ではなくて妻が労働事件の防波堤になっていないか

「クリニックの経営は院長夫妻で成り立っている」とつくづく感じるのは、労働事件の相談を受けるときです。医師は、診察でとにかくいそがしいわけです。テキパキ診察すれば「よく診てくれない」と批判され、じっくり診察すれば「とにかく待ち時間が長い」と批判されてしまいます。とにかく目の前の診察に対応することに全精力を費やすことになります。結果としてクリニックにおけるバックオフィス業務は、配偶者に丸投げということに。院長の妻が経理をすべて担っているというのは、ケースとして珍しくないでしょう。こういった状態では妻がクリニックの人間関係の調整役も担うことになります。いわば院長とスタッフの真ん中に立つということです。

こういう立場は、院長が想像するよりもストレスがかかるものです。「事務長としてスタッフの意見に耳を貸さなければ」という立場と「妻として院長を守らなければ」という立場の両立を強いられるからです。妻としては、ひとのトラブルを避けるためにスタッフの愚痴にも付き合わざるを得ない場面も多々あります。強く意見を言ってスタッフに退職届だされたら経営にも支障がでてしまうからです。ある方は、「スタッフの機嫌をとることに疲れた」と話されていたこともありました。嘘のない正直な気持ちでしょう。

とくに労働事件になると妻のストレスはかなりのものになります。「なんとか職場の平温を維持しなければ」ということで無理をしてしまいがちです。いわば労働事件から院長を守る防波堤のようになっています。ですから労働事件の相談を受けるときには、院長よりも事務長である妻の方が事情について精通していることもよくあるものです。逆を言えば、それほど事務長である妻に頼りながら経営が成り立っていると言うことです。こういう防波堤としての配偶者がいることは心強いですが同時に個人の負担のもとに職場が維持されているという限界もあります。これではいつか倒れてしまいます。

労働事件になった場合のヒアリングにおいても院長よりも事務長こそ情報を詳しく持っているものです。ですからヒアリングするさいには、院長夫婦で参加していただくようにしています。

「丸投げ」によって労働事件は泥沼化してしまう

絶望的なことを述べるようですが医療機関にとって「スタッフの退職」というのは経営に相当のインパクをあたえることになります。労働人口の減少で一般企業でも「採用に困っている」という声は多いものです。医療・福祉の分野では、人手不足はよりいっそう深刻化しています。「申し込みがあるだけで助かる」というのがむしろ採用する側の本音です。結果として採用のミスマッチになってしまい労働事件でかなりの経済的・精神的負担を強いられることになりがちです。

あまたの医療機関の労働事件を担当してきて感じるのですが、「退職してもらっては困る」というのが障壁になってあるべき指導がなされていないケースが多いです。「なぜ注意しなかったのですか」と質問すると「スタッフの感情に触れて辞表だされも困るので」という回答がなされるわけです。そのためいつのまにか問題社員の要求通りに現場が変わっていくということになります。これでは声の大きなひとの声ばかりが採用されることになり現場で地道にがんばっているひとが正当に評価されないということにもなりかねません。失望したスタッフは優秀なひとからやめていくことになるのでしょう。

こういった労働問題に対しては、組織のトップである院長が「自分の問題」として積極的に関与するべきものです。ですが実際には妻である事務長に「うまく対処して」ということで丸投げになってしまいがちです。普段の労務管理などを任せることは、多忙な院長にとっては仕方のないことです。ですが「これは問題になるのでは」という案件については、院長が自ら行動するべきと考えます。というのも小規模なクリニックの場合には、どうしても事務長とスタッフの距離感が近すぎてしまい「然るべき対応」というものがしにくいからです。丸投げされた側としては、相手の顔を立てつつも院長の意見を実現しないといけなくなります。それはかなり難しい話であってとかく問題の先延ばしということになってしまいます。労働事件は、紛争が小さいときにクローズさせることがもっとも重要です。問題の先送りは、感情的な軋轢をさらに深刻化させてしまい労働事件を泥沼化させてしまいます。

共倒れにならないためには情報の共有こそ

クリニックの労働事件では、なかなか解決の指針が決まらず院長夫婦が疲弊するケースも少なくありません。なんとか事務長で対応しようとしてもうまくいかない。そこで院長が登場してもすでに相手も感情的な反発を抱いて冷静な解決の道筋が見いだせない。こういうときは、「どうしたら解決できるのか」というのがもはや冷静に判断することができなくなって悩むだけで時間が過ぎていきます。しかも時間をかければ問題が解決するというものでもなくさらに深刻化することもあります。夫婦共倒れになってしまう最大の原因は、「夫婦だけで解決しよう」としてしまうからです。これは医療機関の場合にとくに顕著なんですが「クリニックの問題を外部に知られたくない」ということからどうしても自分たちだけで解決を見いだそうとしてしまいます。あるいはなんとなく周囲のクリニックの知人に相談してなにかヒントがないかと模索されます。

ですが労働事件には、普遍的な解決策というものがありません。あるクリニックにとっては役立ったノウハウも他のクリニックではまったく役立たなかったということは珍しいことではありません。解決がうまくいったというのも偶然の所産ということが多く再現性のあるものとは限りません。だからこそ弁護士といった専門家に相談するべきです。このように書くと弁護士としての営業目的のように聞こえるかもしれませんが一個人の冷静な意見として聞いていただきたいです。院長夫婦がきついのは、それをすべて自分たちだけで背負ってしまうからです。ひとは、それを外部に話すだけでも自分の置かれた立場などを冷静に考えることができます。しかも話をする相手と適度な距離があるほどに冷静になるものです。身内だとどうしても同情的な意見ばかり耳にするのでフラットに事象を捉えることができません。そこで一歩引いたところから事案を俯瞰する弁護士に相談してみるべきです。弁護士には守秘義務もあるため外部にもれ伝わるということもありません。

それでも「弁護士に相談するのは気が引ける」という方もいらっしゃるかもしれません。そういうときにはせめて本書を読んで「こういう問題も弁護士に相談できるのか」「自分が悩んでいる理由はこれなのか」とわかっていただければ幸いです。知ることからです。

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