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労災事故対応

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労務管理と健康管理で予防する労災

松﨑 舞子 弁護士:松﨑 舞子 投稿日:2023.06.16

業務中の事故による疾病でなく、長期間にわたる業務上の身体的、精神的負荷により発症した疾病は、業務起因性の判断が難しく、労災認定自体が問題となる場合があります。

本ブログでは、長期間にわたる業務上の身体的、精神的負荷により疾病を発症した場合に労災認定がどのような基準でなされているのかを実例とともにご説明し、事業主としての労災予防策についても考えていきます。

労務管理の見直しの折にご活用ください。

基本は「職業病リスト」に該当するか否かで判断されます。

長期間にわたる業務上の身体的、精神的負荷により発症した疾病が業務に起因するか否かの判断基準として、医学上、経験則上一般的に業務起因性が認められるものが労働基準法施行規則別表第一の二に列挙されています。この規定が「職業病リスト」として業務起因性判断の一次的な基準となっています。

例えば、「著しい騒音を発する場所における業務による難聴等の耳の疾患」、「電子計算機への入力を反復して行う業務その他上肢に過度の負担のかかる業務による後頭部、頸部、肩甲帯、上腕、前腕又は手指の運動器障害」のように、有害因子、疾病ごとに具体的な規定がされています。

リストの各号に該当する疾病の場合は、判断において考慮する有害因子の程度や期間等が通達で定められています。通達の具体的な基準に従って、リストへの該当性の判断が行われます。

職業病リストはあくまで例示的に疾病の業務起因性を示したものです。リストに該当しない疾病については、「その他業務に起因することの明らかな疾病」(労働基準法施行規則別表第一の二の第11号)に該当するかという基準で判断を行います。リストに該当しない疾病については、医学上、経験則上一般的に業務に起因するという推定がないところからのスタートです。そのため、労災認定を求める側の立証のハードルが生じます。

具体的なイメージをつかむため、職業病リストに該当する例、しない例の認定を見てみましょう。

認定の実際①-脳・心臓疾患-

過重労働により、脳出血や心筋梗塞を発症した場合については、職業病リスト8号の「長期間にわたる長時間の業務その他血管病変等を著しく増悪させる業務による脳出血、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症、心筋梗塞、狭心症、心停止(心臓性突然死を含む。)、重篤な心不全若しくは大動脈解離又はこれらの疾病に付随する疾病」に該当するか否かを検討します。

認定基準は、次の3要件のいずれかの業務による過重負荷を受けたことにより脳、心臓疾患を発症したこととされています。

①発症前の長期間にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと(長期間の過重業務)

②発症に近接した時期において、特に過重な業務に就労したこと(短期間の過重業務)

③発症直前から前日までの間において、発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したこと(異常な出来事)

上記の各要件の評価要素については、令和3年9月14日付の通達で改正がなされ、評価要素が追加されています。

①長期間の過重業務については、発症前1か月におおむね100時間または発症前2か月間ないし6か月間にわたって1か月あたり80時間を超える時間外労働が認められる場合について業務と発症との関係が強いと評価できる、というのが従来の基準でした。改正により、上記の時間に至らなかった場合も、これに近い時間外労働を行った場合には、労働時間以外の負荷要因の状況も十分に考慮し、業務と発症との関係が強いと評価できることが明確になりました。

労働時間以外の負荷要因として、従来は拘束時間の長い勤務、不規則な勤務、出張の多い業務といった点が考慮されていました。この負荷要因についても、改正により、休日のない連続勤務、勤務間インターバル(終業から次の勤務の始業までの間隔)が短い勤務、事業場外における移動を伴う業務、心理的あるいは身体的負荷を伴う業務であることが要素として追加されています。

②短期間の過重業務、③異常な出来事について、業務と発症との関連性が強いと判断できる場合として、発症前おおむね1週間継続して深夜時間帯に及ぶ時間外労働を行うなど過度の長時間労働が認められる場合、著しく暑熱な作業環境下で水分補給が阻害される状態や著しく寒冷な作業環境下での作業、温度差のある場所への頻回な出入りを行った場合等が改正により明記されました。

改正により明記された内容をみると、労働時間のみでは要件を満たさない場合でも、休日、休息が取れているか、業務そのものの負荷が大きいものでないかという点も広く考慮されるようになったといえます。

認定の実際②-精神疾患-

過重労働により、精神疾患を発症した場合については、職業病リスト9号の「人の生命にかかわる事故への遭遇その他心理的に過度の負担を与える事象を伴う業務による精神及び行動の障害又はこれに付随する疾病」に該当するか否かを検討します。

認定要件は、次の3つの要件を充足することとされています。

①認定基準の対象となる精神障害を発病していること

②認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること

③業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと

①の対象疾病は、統合失調症、気分障害(躁病、うつ病、双極性障害等)、ストレス関連障害等です。発病の可能性が高い疾病としては、うつ病、ストレス関連障害としての急性ストレス障害が挙げられます。

②の業務による強い心理的負荷については、対象期間中の出来事について、出来事と出来事後の事情を総合的に評価して判断します。

まず、認定基準が定める「特別な出来事」があったか否かを判断し、該当すれば心理的負荷の総合評価が「強」となります。「特別な出来事」の例としては、生死にかかわる、極度の苦痛を伴う又は永久に労働不能となる後遺障害を残す業務上の病気やけがをしたこと、強姦や本人の意思を抑圧して行われたわいせつ行為、発症直前の1か月におおむね160時間を超えるような長時間労働を行なったこと等が挙げられます。

「特別な出来事」に該当する出来事がなかった場合は、認定基準の定める「具体的出来事」に該当するか、各「具体的出来事」に関する心理的負荷の強度について「弱」「中」「強」のいずれに該当するかを判断します。例えば、客観的に相当な努力があっても達成困難なノルマが課され、達成できない場合には重いペナルティがあると予告された場合には心理的負荷が「強」と評価されます。

「具体的出来事」とその評価は詳細に区分されており、一般的に心理的負荷がどのように評価されるかを検討する指標にもなります。事業主として業務内容を見直す際には参考になると考えます。

なお、心理的負荷の強度は、発病した労働者が対象期間中の出来事を主観的にどう受け止めたかではなく、同種の労働者が一般的にどう受け止めるかという観点から評価します。発病した労働者が特にストレスに弱い状態にあったことが問題となる場合は、③の個体側要因による発病といえるかを検討することになります。

③の業務以外の心理的負荷については、認定基準に具体的出来事と心理的負荷の強度がⅠ~Ⅲの3段階で類型化されています。例えば、離婚又は別居については、最も強いⅢに該当します。Ⅲに該当する出来事が複数ある場合には、その出来事が発病の原因といえるかを慎重に判断するとされています。

個体側要因としては、精神障害の既往歴やアルコール依存状況等が挙げられます。

職業病リストに具体例がない疾病-胃潰瘍の例-

過重労働により、出血性胃潰瘍を発症し死亡した従業員について、労災認定がなされ、会社に対して損害賠償請求訴訟が提起された事例が報道されました。

過重労働による消化器系の疾病は職業病リストに記載がなく、異例の認定として注目されています。

従業員の死亡前の直近1カ月が約122時間、その前の1カ月が約113時間で、労働基準監督署は、当該従業員が現場責任者として、ゼネコンとの打ち合わせや部下への指示、工期や仕様の変更への対応などもあり、長時間労働やストレスで胃潰瘍を発症したと認定しました。

労働基準監督署の調査は1年以上に及んだそうです。

職業病リストの認定基準にない疾病については、業務の過剰性と発症した疾病との業務起因性が医学的な見地から認められる必要があります。労災認定を求める場合には、医師の協力による丁寧な立証が求められることになります。

予防策としての産業医との連携

長期間にわたる業務上の身体的、精神的負荷による労災の予防のためには、継続的に労働時間や業務の負荷を把握し改善を行う取り組みが必要です。ただ、個々の従業員の身体的、精神的健康状態を事業主が把握するには限界があります。

そこで、産業医との連携を活用することで効果的な労災の予防が期待できます。

産業医は、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識をもとに、健康診断、健康相談、衛生管理者に対する指導や助言、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告といった業務を行います。

常時50人以上の労働者を使用する事業者は産業医の選任義務があります。従業員が50人未満の事業主でも産業医と連携をすることは可能です。

産業医に心当たりがない場合には、都道府県の医師会や健康診断を依頼している医療機関に相談すると、産業医を紹介してもらえることがあります。

専門家の助力を得ながら労務管理と健康管理を並行して行うことは、長期間にわたる業務上の身体的、精神的負荷による労災を予防する有効な一手です。労務管理の見直しをされる場合には、検討されることをお勧めします。

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