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労災事故対応

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安全な職場環境整備による労災予防

松﨑 舞子 弁護士:松﨑 舞子 投稿日:2023.12.15

労働災害は、普段危険性を感じていない場所でも発生し、思いもよらない重症となる例もあります。安全な職場環境を整えていないことが、労災事故に対する会社の責任追及に発展する場合もあるため、十分な対策が必要です。本ブログでは、職場環境の安全性整備の視点から、労災事故への対策を考えていきます。

統計でみる労働災害の近年の傾向

労働災害として最も多い事故類型といわれると、何を想像されるでしょうか。厚生労働省の統計によると、令和4年で最も多かった労働災害は「転倒」でした。割合でみると、13万2355件中の3万5295件と26%に上ります。産業別では、製造業や建設業、運送業よりも、サービス業における転倒事故の割合が多くなっています。令和3年と比べても、「転倒」事故は増加傾向となっていました。

具体的な事例でみると、サービス業の場合では、

・濡れた床や汚れた床で滑った

・介助業務中にバランスを崩して被介助者と一緒に転倒した

・床に置いてあった物やコードに足を引っかけた

といった事例がみられます。いずれも通常業務のふとした場面に発生した労働災害といえるでしょう。

「転倒」に続いて多い災害類型は、「動作の反動・無理な動作」「墜落・転落」「はさまれ・巻き込まれ」でした。これらの類型はいずれも1万件以上となっています。

「動作の反動・無理な動作」では、物を持ち上げたり被介助者を支えたりする際に腰を痛める例が散見されました。

また、飲食店では、調理器具による切傷、高温・低温の物への接触による火傷等といった災害が目立ちます。

危険な機械を扱う製造業や建設業だけでなく、サービス業の日常的な業務の中でも労災事故が多発している点は注目したい事実です。

高年齢者雇用の促進により高まる安全な職場環境整備の必要性

厚生労働省の統計では、被災者の年齢別にも集計がなされています。20歳から5年ごとに区分された年齢層について、59歳までの年齢層と同程度の件数で、60歳から74歳までの年齢層でも労災事故が発生している結果となりました。

令和3年4月1日から施行されている高年齢者雇用安定法の改正により、70歳までの定年の引上げ、70歳までの継続雇用制度の導入等の努力義務が企業に課せられたことや人材不足を背景として、高年齢者が現場で働き続ける機会が増加しています。

他方、年齢が高くなる程に身体能力には衰えが生じ、通常の業務活動においても負傷するリスクが高まります。

経験や知識の豊富なベテランの人材を、防げたはずの労災事故で失わないためにも、安全な職場環境の整備は率先して進める必要があるといえます。

高年齢者の労災事故防止の取り組みに関しては、厚生労働省が公表しているエイジアクション100のチェックリスト等が参考になります。

高年齢の従業員にとっても安全な職場環境の整備は、他の世代の従業員にとっても働きやすい環境づくりにつながります。高年齢従業員の雇用継続体制の整備・見直しの折に、職場の安全性についても検討をしてみてはいかがでしょうか。

職場の安全整備と会社の責任の関係

職場環境の安全性については、労働安全衛生法及びその関係法令において具体的に規定されています。労働安全衛生法は、法令により事業者に対して義務を課す立て付けになっています。そのため、労働安全衛生法関係法令の違反が直ちに従業員に対する責任の根拠となるものではないとされています。

従業員が労災事故に遭った場合に事業者に責任を追及する場合は、信義則上の安全配慮義務を根拠とします。安全配慮義務も労働安全衛生法関係法令も、労働者の安全性を確保する意味では目的を同じくしています。この点を考慮し、裁判例においては、労働安全衛生法関係法令が安全配慮義務の内容や基準となることを認めているものがあります。

労働安全衛生法関係法令の規定は細部にわたりますが、労働者の安全確保に必要かつ有益な内容となっていますので、遵守できているかは十分に確認しましょう。

なお、労働安全衛生法関係法令には多くの通達やガイドラインが出されています。通達やガイドラインには、労働者の安全確保を目的とするもののほか、より働きやすい環境の整備に関するものもあります。安全配慮義務としてどこまでを遵守すべきかについては、労働者の安全確保を目的としているか否かという視点で考えることとなります。

労働安全衛生対策の基本

労働安全衛生法及び労働安全衛生規則では、事業所の規模に応じた労働安全衛生の管理者を選任する必要がある旨規定しています。常時50人以上の労働者を使用する事業所においては、専属の安全管理者や衛生管理者を選任し、産業医を選任する必要があります。

常時使用する労働者が50人未満の事業所であっても、10人以上である場合には、安全衛生推進者や衛生推進者を選任することとなっています。

常時使用する労働者が10人未満の事業所は、事業者が安全衛生管理を行います。

このような法定の安全衛生の管理者を選任した上で、事業所の実情に即した安全衛生対策を検討していきます。

現場で行う対策として、厚生労働省は、整理・整頓・清掃・清潔の4S活動、危険を予知するKY活動、危険の共有を推奨しています。

整理・整頓・清掃・清潔については、

・台車やカートといった備品の定位置を定めることによるつまずき、ひっかけ防止

・床面を清潔にすることによる転倒防止

・在庫の保管場所の整理による安全な動線の形成

・飲食店における包丁等、危険物を整理して保管することによる怪我の防止

といった効果が生まれます。

危険の予知・共有については、各従業員が感じたヒヤリハットを定期的に共有し、危険な箇所に表示を行う、見取図に落とし込むという方法が考えられます。

危険の共有が不十分であったことにより発生した労災事故について、事業者に責任が認められた裁判例もみられます。

飲食店の調理担当の従業員が、店舗が入居するビルに設置された雨に濡れた屋外階段で移動しようとした際、事業者が使用させていた裏面が摩耗したサンダルを履いていたため転倒して負傷する事故が発生しました。従業員は、事業者が階段の床面に滑り止めを施工したり、注意を促す表示をしたり、雨でも滑らない履物を用意したりするなど、階段が雨で濡れた際も従業員が安全に使用することができるように配慮すべき義務があったのに、これを怠った点について安全配慮義務違反を主張しました。

裁判所は、過去にも同じ状況で別の従業員が複数名転倒しており、現場責任者の店長も過去の転倒事例を把握していた事情を考慮し、事業者においては転倒の危険を予測できたものであり、従業員が主張する対策を講じることも可能であったとして安全配慮義務違反を認定しました。

安全衛生対策は、現場の困りごとを過小評価せずに対応していくことが第一歩といえます。

従業員にも安全衛生の意識を根付かせる

現場から安全衛生対策に関して十分に意見が出るようにするには、従業員に対する安全衛生教育も重要です。労働安全衛生規則上は、雇入時教育、危険あるいは有害な業務に関する特別教育、一定の業種における職長教育が定められています。従業員教育の充実のため、社外のセミナーや教材の活用も検討してみましょう。社内の意識高揚、定着を図る方法としては、ビフォーアフターを視覚化した掲示や社内報も考えられます。

併せて、経営者自身が安全衛生について研鑽を積み、トップとしてメッセージを発信することも有効です。

労災事故は発生の防止が対策の要です。安全衛生という基本の視点に立ち返ることで実効的な対策が可能となるでしょう。

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