AIは強くする、弱くする
弁護士:島田 直行
投稿日:2026.09.29
AIに関する本は本当に増えました。ただ、その多くは「AIをどう使うか」「どのツールが便利か」という話に寄りがちです。
その点、城田真琴さんの『AIに潰されないための競争戦略 5つの武器(モート)』は、かなり視点が違います。AIを使う方法ではなく、AIが当たり前になった後に、企業の競争力がどこに残るのかを真正面から考えています。経営者にとっては、こちらの方がはるかに重要な問いかもしれません。
読んでいて特に印象に残ったのは、AIによって仕事がなくなるというより、企業同士が競争する場所そのものが変わる、という考え方です。
AIによって文章作成や資料整理、画像生成、プログラミングなどの「作る力」は急速に一般化していきます。誰でも一定水準の成果物を作れるようになれば、「上手に作れること」だけでは差がつかなくなります。
本書は、その先に残る競争力として、顧客との関係、信頼できるデータ、業務の流れ、販売経路、周囲とのつながりといった、簡単には真似できない構造に目を向けています。この整理は非常に分かりやすく、AI時代の経営を考えるうえで大きなヒントになります。
この本が優れていると感じたのは、AIを過大評価も過小評価もしていない点です。
AIが得意な仕事は、かなりの勢いで置き換わっていくでしょう。しかし、実際の仕事は一つひとつの作業だけで成り立っているわけではありません。相談を受け、事情を聞き、必要な情報を集め、判断し、説明し、その後の結果まで見る。AIは、その途中にある個々の作業を効率化することには非常に強いです。
しかし、その仕事全体をどうつなぐのか、どこで人間が判断するのか、誰が責任を持つのかという部分は、別の問題です。
法律事務所でも同じです。契約書の原案を作ることや、法律情報を整理することは、今後ますますAIが担うようになるでしょう。しかし、顧問先の過去の経緯を知っていること、経営者が何を重視しているかを理解していること、会社の現場や人間関係まで踏まえて現実的な落としどころを考えることは、簡単には置き換わりません。
本書を読むと、企業の強みとは、派手な機能や最新技術そのものではなく、日々の仕事の中で積み上げてきた地味な構造の中にあるのだと改めて気づかされます。
だから、経営者がAIについて考えるとき、「どのAIを導入するか」だけを議論していては足りないのだと思います。
もっと大事なのは、自社がこれまで強みだと思ってきたもののうち、AIによって価値が下がるものは何か、逆にAIによってさらに強くなるものは何かを見極めることです。
長年付き合ってきた顧客との関係、過去の失敗から生まれた仕事の進め方、社内に蓄積された知識やデータ、簡単には言語化できない判断基準、何かあったときに最初に相談してもらえる信用。こうしたものは一見すると地味です。
しかし、誰でも簡単に一定水準のものを作れる時代になればなるほど、こうした積み重ねの価値は高くなります。
本書は、AI時代に必要なのは「AIを上手に使うこと」だけではなく、「AIによっても簡単には崩れない自社固有の強みをどう築くか」であることを、具体的かつ論理的に示しています。
AIで仕事がなくなるのではない。競争する場所が変わる。
その意味を経営者の立場から考えるうえで、かなり良い一冊だと思います。
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