会社が身元保証人を設定する意味について解説:社員のミスは請求できる?

投稿者:
島田 直行(弁護士)
2020.02.15 (更新日:2020.02.16) 経営者の方々へ

中小企業の会社でも採用時に社員に身元保証人の設定を求めることがあります。会社としては,「社員がミスなどして会社に損害を与えたときを見越して身元保証人を」と考えての対応になります。ですが実際には「身元保証人さえ確保しておけばリスクを回避できる」というほど単純ではありません。そもそも身元保証人は,いわゆる貸金などの連帯保証人と同じように考えるべきものでありません。身元保証人の意味について整理しておきましょう。

会社が理解すべき身元保証人に関する法律

身元保証については,身元保証法という特別な法律があります。おそらく「そんな法律があったのか」とはじめて知った人も少ないでしょう。あるんです。しかも大事なんです。

そもそも身元保証は会社のリスク軽減を目的としています。逆にいえば保証人にとっては相当の負担になります。そこでリスクを軽減したい会社と無制限な責任を回避したい保証人のバランスをとるために定められたのが身元保証法といえます。(これからの記事の条文は身元保証法についてです)

身元保証法では身元保証の期間が決まっています。期間の定めがあれば5年間有効ですが(2条1項)なければ3年間になります。(1条)仮に自動更新という取り決めをしても無効です。期間満了後も身元保証を有効にするためには再度身元保証契約を会社と身元保証人で締結しないといけません。更新期間も最大で5年間です。(2条2項)どんだけがんばっても5年ごとの更新が必要になります。

つまり採用時に身元保証人がいるから大丈夫ということにはなりません。おそらくこの時点で多くの会社関係者は「知らなかった。まずい」ということになるでしょう。人間知らないことは許されませんから注意したほうがいいですよ。

社員が横領した場合に「身元保証人に請求を」と息巻く経営者も多いです。ですがまったく身元保証契約の更新をしていないところが少なくありません。採用時に書面もらっておけば退職まで有効と誤解しているわけです。そのため「いざ身元保証人に」というときにまったく役に立たないわけです。悲しいですね。

「身元保証人を用意したから大丈夫」なんて絶対に思ってはなりません。不思議なもので「保証人」という言葉に過剰な期待を寄せている人多すぎ。

会社が身元保証人に追及できる責任範囲に関して解説

会社は,①社員が業務について不適任あるいは不誠実の場合②業務内容あるいは勤務地に変更がある場合などで身元保証人の責任が重たくなるような場合には身元保証人に通知する義務が発生するときがあります。(3条)身元保証人は,常に社員の側にいるわけではないので社員の業務状況を把握することができません。身元保証人が過重な責任を事後的に追及されることがないように会社に通知義務を課したものです。でも実際には条文知らずに通知しないまま転勤などを明示しているケースが多いでしょう。

こういった通知をすれば身元保証人として将来に向けて契約を解除することができます。(4条)そうしないと身元保証人はあまりにも重い責任を自分のあずかり知らぬところで負担することになりかねないからです。

次に一番大事なのは仮に社員がミスをして会社に損害がでたとしても全額を身元保証人に請求できるとは限りません。法律で請求できる範囲が制約されています。(5条)①会社側の過失の有無②身元保証をするに至った経緯③身元保証をするさいの注意の程度④社員の任務などさまざまな事情を考慮して身元保証人の責任の範囲を裁判所が決定することになります。

実際の現場における争いは,この条文により負担する身元保証人の責任の範囲です。実務では会社が想像するよりもぐっと身元保証人の責任が限定されています。当然に全額を請求できるわけではないと腹づもりをしておいてください。これって会社からすれば「裁判所が決定するなら身元保証人をつけた意味がない」という批判をよく耳にします。たしかに。

でも身元保証人の責任をあまりにも重たくしすぎてはならないという配慮からできたものです。「こんな法律はおかしい」と思っても天に唾をするようなものです。現実的には「身元保証人からの回収は難しい」と考えておく方がいいです。

会社は身元保証について民法改正の影響を把握する必要がある

さらに身元保証制度は,令和2年4月1日からの民法改正の影響を受けます。今回の民法改正では保証人を保護するために保証人の負担する責任について上限を明確にする必要がでてきました。「保証人の責任を無制限にするのではなく上限を予め決めておきなさい。そうしないと無効です」というものです。

保証人になる側からすれば,予め自分の負担する責任の上限がわかるので安心できます。ですが保証人を求める側からすれば,「保証人は無制限の責任だったから意味があったのに」ということにもなります。保証人の責任を制約するというのは時代の流れです。このなかでどうやって会社のリスクを軽減していくかを考えていくほかありません。

令和2年4月1日以降に身元保証を設定する場合には,こういった身元保証人の責任の上限(極度額)を明確にしないといけません。曖昧なまま契約をすると無効になるので注意が必要です。

現在の企業が抱える課題は,「なら極度額はいくらにすればいい」というものです。仮に1000万円といった高額なものにすれば身元保証人になる人が誰もいなくなり採用申し込みがないかもしれません。ただでさえ人手不足のなかでさらに募集者を減らすことになるかもしれません。しかも高額すぎる設定は契約自体が無効になる可能性もあります。

はっきりいって「これなら大丈夫」という基準は現状でありません。まだ法律も変わっておらず「どこまでが許容されるのか」については不明です。実際には将来における事例の集積を待って「ここくらいが限度でしょう」というのが決まってくることになるはずです。それまでは様子見といったところです。

個人的にはとりあえず100万円をひとつの上限にしてみたらどうでしょうと提案しています。「年収の1年分はどうか」という相談も受けましたが年収は変化するためにあまりにお勧めしません。